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方丈記を読んで ~寄居は小さき貝を好む~






 職場である大阪歴史博物館の近くに、ジュンク堂書店天満橋店という本屋さんがあります。
 先日、立ち寄ったら、<方丈記と無常観>のミニコーナーが作られていました。文庫で読めるものから、評釈本、小林秀雄の『無常といふこと』まで。それらの本が、初級・中級・上級とランク分けされていて、店員さんのコメントが付けられています。
 なかなかおもしろい。
 一冊買おう、ということで、初級!で、一番わかりやすいという、武田友宏編『方丈記(全)』(角川ソフィア文庫)を買ってみました。


   方丈記


 鴨長明が書いた方丈記。古文の授業で必ず出てきて、「行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」という書き出しは、誰でも知っています。でも、案外なかみは“?”かも。実は、私は通読したことがありませんでした。

 その内容と、ジュンク堂のコーナーが作られたことには大いに関係があります。
 長明の時代、つまり12世紀後半は、天変地異が相継いだ時代だったのです。長明は、こう書き出します。

 予(われ)、ものの心を知れりより、四十(よそぢ)あまりの春秋をおくれる間に、世の不思議を見ること、ややたびたびになりぬ。

 四十年あまり生きてきて、ありえないような事件を度々経験してきたと言います。
 それは、大火、辻風(竜巻)、福原京遷都、飢饉、大地震です。長明は、見聞きしてきたその経験をつまびらかに書き記します。
 実に方丈記の前半は、この災害・事件の具体的な描写に費やされています。人々が災厄に倒れ伏し打ちのめされるさまは、むごいものがあります。

 私の心にとまった言葉に、次のものがありました。

 寄居(がうな)は小さき貝を好む。これ、こと知れるによりてなり。鶚(みさご)は荒磯に居る。すなはち、人を恐るるが故なり。我また、かくのごとし。ことを知り、世を知れれば、願わず、走らず。ただ、静かなるを望みとし、愁へ無きを楽しみとす。

 現代語訳≪ヤドカリは小さな貝を好んで宿とする。これは、身を守るには、自分の入れる最小限の貝が目立たなくて安全だと知っているからだ。ミサゴという鳥は波の荒い海岸の岩場に住んでいる。これまた、身を守るために、人の近づかない場所を選ぶからなのだ。私もまた彼らと同じだ。災害の恐ろしさと人世のはかなさを、身をもって知っている。だから、むやみに欲張らずあくせく名利を追いかけない。ただ心静かに生きることを望み、平穏無事を楽しみとしている。≫

 <寄居(ゴウナ)は小さき貝を好む>、印象的な句です。
 このような考え方は、その後も私たちの中にあったと思います。いわゆる<身の程を知る>という考え方でしょうか。自らを誇張して大きく見せることのない<ゴウナ>の生き方です。
 この「こと知れる」ということ。これが肝要なところ。「こと」は、火災・地震などの<変事>と捉える解釈もありますが、<世の中に起こる出来事>というふうに考えておけばよいのではないでしょうか。あるいは、敷衍して、<ことわり(理)>とまで考えてもよいかも知れません。
 ヤドカリは、自分を<世の中>という尺度と比較して、決して過大評価しないから、自分を必要以上に大きな存在と捉えず、分相応の小さな貝に住むのだ、と。
 ひろげた解釈ですが、私はそのように読みました。

 翻って、いまの世の中。個人も組織も、自分を大きく見せようと躍起になっているようにみえます。
 鴨長明は、都を離れて閑居したのですが、私たちはなかなかそうもいかない。毎日職場に行って、給金をもらうために仕事をしないといけない。長明とは身分が違うといえるかも知れません。
 それでも、大きな服を着て自分を大きく見せるということは、やめた方がよいのかも知れない。では、どうすればよいのでしょうか?
 長明は、言います。

 おのづから都に出でて、身の乞匃(こつがい)となれることを恥づといへども、帰りてここに居る時は、他の俗塵に馳することをあはれむ。

 現代語訳≪たまたま京の街に出る機会があって、自分が浮浪者同然の姿になっていることを恥ずかしく思うものの、ここに戻って来ると、街の人々が俗事にとらわれて、安らぎを失い、あくせくしている姿を気の毒に思う。≫

 <俗塵に馳する>という言葉、身に浸みます。なぜ、俗塵に馳せるようになったのだろうか? なぜ、俗塵に馳せなければ、毎日が過ごせないのだろうか?
 このことは、もう少し考えることにしましょう。






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