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博物館の<大衆化> (2)






 伊藤寿朗氏は、1970~80年代に、博物館の市民化を説かれた研究者だった。その著書、『市民のなかの博物館』(吉川弘文館)は、没後の平成5年(1993)に刊行された論集である。
 その第Ⅱ部に「博物館の大衆化」という項がある。氏は、1960年代の博物館数の急増や“年間3億人の入館者”など、その普及ぶりを<大衆化>とする。事実、1957年と1986年を比較すると、博物館数は7.9倍(479館→3,920館)、入館者数は5.2倍(5,451万人→2億8,098万人)と大きく伸長している。
 そのなかで、博物館は「相対化」されてきており(つまり淘汰されていくこと)、活動内容の質が問われている、と指摘している。もちろん、問い掛ける主体は、博物館関係者だけでなく「意識的な市民自身」でもあるのだ。
 伊藤氏は、これを「博物館の大衆化が生みだした大きな成長」であると述べる。

 伊藤氏が、『市民のなかの博物館』や、『ひらけ、博物館』(岩波ブックレット、1991年)などで展開された議論のなかで、最も知られるのが<博物館の3世代論>だろう。日本の博物館を歴史的に3つの発展段階に分けて、順に発展していくという考え方である。
 氏の理想は<第3世代>で、「社会の要請にもとづいて、必要な資料を発見し、あるいはつくりあげていくもので、市民の参加・体験を運営の軸とする将来の博物館である」。
 つまり、博物館の運営に市民が主体的に参加していくというものが、理想像なのである。それは、行政などから与えられる博物館ではなくて、自らが欲するものを自らの手で作り上げていくという姿だろう。

 氏は、第2世代から第3世代への転換のカギは、<継続的な利用者(リピーター)>を重視することだとする。そのことが、受け身でなく積極的に参画する市民を生み出すという。

 伊藤寿朗氏の議論から、約20年が経過した。
 日々現場で働く学芸員としては、“なんだか懐かしい”という印象。いま、伊藤氏が唱えられた博物館の理想像は、かなり遠くに退いてしまった、とすら感じられる。
 博物館の大衆化のうえに獲得できるはずだった<市民の参加>という理想は、いつどこに消え去ったのか? いま、その代わりに強く意識されるようになったのは、伊藤氏がいう<市民>とは異なった<大衆>の存在ではないのだろうか。

 懐かしいついでに、伊藤氏が遺された言葉を引用しておこう。博物館の運営に関する記述である(『ひらけ、博物館』)。

 また、ここ数年で「行政から独立した運営」をめざして、自治体がつくり、自治体の補助金を受けながら第三セクターが運営する館が急増している。(1)行政に予算を縛られず、自由な運営ができる、(2)学芸スタッフを第三セクターの職員として採用すれば、自治体の職員定数を上まわらなくてもすむ、(3)役所の年度に縛られないで、弾力的な財政運営が可能だ、などの理由があげられる。
 だが、第三セクターの場合、役所から自立して収支のバランスをとることが前提のため、教育事業が有料のイベントとなりがちで、観光志向型に傾きやすい。市民や議会がチェックする機会が失われるなどの弱点もある。市民の学習する権利を保障するという理念が骨抜きになっていく危険もはらんでいる。教育の論理ではなく、営利の論理が優先されている館がめだつ。
 では、博物館は一般行政から自由な立場であるべきだからといって、職員が勝手に運営できるのか。
 そうではない。博物館の運営が市民の要望を反映しているかどうかをチェックする機関として博物館協議会がある。博物館法は設置を義務づけてはいないが、多くの公立館は持っている。
 ただ、問題なのは、委員の選び方だ。
 設置者側が選ぶため、館の活動に異議を唱えない「無難な人」が委員になりがちだ。(中略)
 市民の意見が協議会に反映されているかどうか、あなたは確かめられるだろうか。そのためには、協議会は公開されるのが本来の姿だ。(後略)

 もちろん、これは博物館運営に対する1つの見方であり見解である。しかし、現時点で20年前に書かれたこの文章を読んで、考えさせられることも多い。
 博物館法が改正されて、ちょうど3年になる。博物館で働く人たちはもちろん、利用する人たちも、博物館はどうあるべきかを常に考えつづけないといけない。その考える行為が、ほんとうの<大衆化>につながるだろうから。





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