スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「数」の前に立ち尽くす学芸員(1)






 劇作家・平田オリザさんの著書に、「あるディスカッション」という一項がある(『芸術立国論』集英社新書、2001年)。
 大学の授業などで、劇場運営に関して、次のようなテーマで議論するそうだ。


 【課題1】
 市民から議会を通じて、
 「我が市では、福祉行政さえもまだ不充分であるのに、なぜ直接市民の生活の向上に役立たない文化行政に多くの予算を割くのか、理想は分かるが時期尚早なのではないか」
 との指摘がなされた。議会で、どのように答弁するのか? 答弁書を書け。

 【課題2】
 また、その指摘の中で、具体的に、あなたが選んだ舞踏の公演が、
 「海外でいかに評価されていようとも、前衛的すぎて、多くの市民の共感を得られるものではない」
 との指摘も受けた。どのように答弁するか? 答弁書を書け。

 
 どうでしょうか?
 平田さんも、もちろん「答えはこれだ」などとは書いていません。

 ここに出てくる芸術分野の話と、私たちが日々運営している博物館とは、ほぼ同じような状況にあるといっていいでしょう。

 私が、敏感に反応してしまったのは、やはり「舞踏」という言葉です。
 舞踏、ご覧になったこと、ありますか? 私は学生の頃に観たことがありますが、確か1度きりだったと思います。それ以来、生では観ていません。
 日本の舞踏は世界的に評価されてきたけれど、では国内でどのくらい観られたかというと、たとえば劇団四季などと比べれば、とても少ない数でしょう。

 平田さんの課題に沿って、自分が地方自治体の担当者になって、公立ホールで舞踏を上演しよう、と考えたとき、それをどうやって実現するのか? なかなか、むずかしいものがあります。
 
 私たち学芸員も、展覧会などの企画を考える際、とにかく、どのくらいの方に支持していただけるのか、ということに無関心でいられません。

 すでに一昨年の出来事になってしまいましたが、2009年3月~6月、東京国立博物館で「国宝 阿修羅展」が開催されました。61日の会期で、約94万6千人の来館者があったそうです。1日平均にすると、約15,000人です。
 近年、この例のように、50万人を超え、100万人に近づくような展覧会が首都圏で出始めています。1960~70年代に、ツタンカーメンやモナ・リザの展覧会で100万人を超えた例があるのですが、それはずいぶん以前の話。個人の趣味・嗜好が多様化して、同じものにワッと集まらなくなった今、なぜ展覧会に何十万人もの人が集まって来るのか。
 阿修羅展は、九州国立博物館でも開催されましたが、こちらも約71万人の入館者だったそうです。福岡県の博物館ですから、この数は東京以上といえるかも知れません。

 私は、折にふれて、好きなスポーツや映画の状況と比較します。映画界で、次のようなことがいわれています。東宝の中川敬さんの指摘です。


 なんで死屍累々の状況(興行的にヒットしない作品が多数発生する状況)が生まれたのか、何がそうさせたのか。送り手の問題もありますが、それは観客が選んだ結果でもあるんです。そこで問題にするべきなのは、映画を選択するうえで「話題性」が大きな位置を占めるようになってきたことでしょうね。本来、映画というのは、作品のテーマとか、撮った監督とか、出ている役者さんとか、作品に内在する要素で選んでいたわけです。でも今ヒットした作品を見ていくと、「みんなが話題にしてるから」ということが観客の心理を後押ししている。それは、映画の話題性そのものがコミュニケーション・ツールになっているからですよね。だから、コミュニケーション・ツールにならないような作品は特に若い人からは選ばれなくなってしまう。
     (「急変する製作配給興行システム」、「映画芸術」431号、2010年)


 近年ヒット作をたくさん出している東宝の方がこういう発言をするところに、逆説的な説得力を感じました。映画界では、テレビ局が絡んだ映画、つまりテレビ(などのマスコミ)で露出度が高い映画が、よく観られる結果になるのですね。またPRのため、毎週、週末になると主演俳優が朝の帯番組に出てくる… その傾向に拍車がかかっている。

 おそらく、首都圏や九州で、数十万人を集める展覧会は、≪話題性≫が高く、その展覧会を観ることが、友人・知人との≪コミュニケーション≫に役立つ、ということなのです。

 「あなた、阿修羅展、観た?」という会話が、一昨年の東京でどれだけされたのだろうか。

 コミュニケーション・ツールという概念。「内在する要素」で選ばれるのではなく、コミュニケーションするためにどのくらい役立つのか、という観点で選ばれること。ここに新しい問題が潜んでいます。
 映画でも展覧会でも、内容に対する評価は十人十色でしょう。たとえば、2010年、日本映画の興行収入で第2位だった「THE LAST MESSAGE 海猿」。興行収入は約80億円、つまり500万人以上の人が観たということです。私も観たのですが、なぜ500万人もの人に支持されたのか(日本の人口でいえば、25人に1人が観ている)、どう理解したらよいのか難しいものがある。
 こういった状況は、作品や展示の内容評価とは別の要因が働いていると考えることができるでしょう。

 (この項、つづく) 
 





スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なにわ歴博

Author:なにわ歴博
大阪歴史博物館

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。